【公演レビュー】古今東西の細やかな調和、ユニバーサル・バレエ「沈清」

【公演レビュー】古今東西の細やかな調和、ユニバーサル・バレエ「沈清」

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▲ 1幕 暴風雨吹き荒れるインダンスの場面

(c)ユニバーサル・バレエ

食人鬼のように迫りくる波、体を支えることすら困難な風、横から吹きすさぶ鋭い雨。神が下した水拷問に巻きこまれた一隻の船首の上に、あどけない少女が一人立っている。 少女の顔は恐怖でいっぱいだ。 その後方で、鋭い目をした船員たちが死んでしまえと地団駄を踏み、海は祭物を飲み込もうと舌を船首の上までうねらせる。 少女はつま先を脅かす恐ろしい海のまん中に、盲人である父の顔が見えるようである。 震える手でお父さんの開眼を願う少女は一気に水の中に飛び込み、細い身体が船首から消えた瞬間に客席の息は止まる。

 

去る9日から12日まで国立劇場ヘオルム劇場にて上演されたユニバーサル・バレエ「沈清」はよく知られた「沈清伝」が原作だ。 1986年初演以後、1987年に初めて海外の舞台に上がった。 以後着実に米国、フランス、日本など12ヶ国で200余回の公演を展開し拍手を受けた作品だ。

 

トウシューズで描き出した「孝」…世界の人々の感性を一つに調和

 

ユニバーサル・バレエ「沈清」は古典と現代、西洋と東洋の感性が適切な密度と温度で表現された作品だ。 韓国固有の素材を扱いながらもステップは徹底してクラシック・バレエに基礎を置いているのが特徴である。

 

この作品は、外国人の振付家と作曲家が携わり「グローバル」な感性を引き出している。 「沈清」の初演振付家であるエイドリアン・デラス(Adrienne Dellas)は、ユニバーサル・バレエの第1代芸術監督だ。 彼女は1幕 村人の踊りに含まれた「興」を軽快な脚の動きのバレエに溶け込ませ、宮中の祝宴が繰り広げられる3幕では、ハンサム(手首に着用して長くぶら下げるそで)を活用し韓国的な色彩を存分にだした。

 

一方、3幕の「ムーンライト パ ド ドゥ」と2幕のディベルティスマン(踊りの饗宴)場面では「白鳥の湖」、「ジゼル」など古典バレエで出会うことのできる古典的な美も存分に表現している。 作曲家ケビン・バーバー・ピッカード(Kevin Barber Pickard)の音楽も伝統にしばられない柔軟な旋律で、世界を一つにする感性を刺激した。 西洋人の見る韓国的情緒に寄り添ったこの作品は国内の観客だけでなく海外の観客の好みをも満たすに充分なものであった。

 

外国人に「孝」思想は不慣れな情緒でありうる。 だが、バレエ「沈清」はマイムやステップを通じ、内容に具体性を加えて誰でもすぐに理解できるようにした。 ユニバーサル・バレエの公演企画チーム関係者は、「両親に献身する姿はすべての人に共通して持っている心であると思う。 公演をご覧になった外国の方々の中では涙する方たちもいた」と話した。

 

古典と現代技術の調和は作品に活気を加える。 1幕 暴風雨吹き荒れるインダンス(沈清の飛び込む海の深い場所)で揺れる船の姿は実物を彷彿とさせる程スペクタクルだ。 暴風雨に投げられた船の上で帆が激しく揺れ、あちこちで耳を破るような雷が鳴り響く。 実際に舞台をグルグル回り客席にまで吹く風は、観客を暴風雨の緊張の中に一緒に追い込む。 2幕の始めはインダンスに落ちていく沈清を水中映像で映す。 14時間かけて撮影された映像は、水中で遊泳するバレリーナの繊細な身振りを夢幻的に捉えている。

 

韓国固有の情緒である「孝」思想を「グローバル」な感性で描き出したのも印象的だ。 ユニバーサル・バレエの「沈清」は、原作に登場する意地悪な女(ペンドクオモム)の登場を削除した。 父娘の切ない愛の物語により焦点を合わせ、スッキリしていて入り込みやすいストーリーを作り出した。 特に、初めて見る人にも理解しやすい話の構造なので、すべての世代が一緒に見ることができる「家族公演」としても十分な魅力を備えた。

 

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▲ 2幕 龍宮で繰り広げられるディベルティスマン(踊りの饗宴)の場面

(c)ユニバーサル・バレエ

 

次々と繰り広げられる名場面…「沈清」の繊細な感情演技が引き立つ

 

ユニバーサル・バレエ「沈清」には、観客の目を惹きつける名場面があちこちに配置されている。 1幕 船員の群舞は、男性群舞のエネルギーにあふれている。 男性ダンサーは船上での素早く力強い動作で空と底を二分する。 特に、この後に続く「沈清」の落下場面は船員の群舞と迫力感あふれる舞台演出、死を目前に恐れを見せる「沈清」の人間的な苦悩が共に描かれ、観客を感情の淵へと追い詰める。

 

2幕 龍宮のディベルティスマン(踊りの饗宴)のシーンも目を楽しませる。 一度も経験したことのないような世界を想像力で作り出した舞台とダンサーの多彩な技巧が交差し、豊かな見どころを作る。 だが、視線を奪う鮮やかな舞台と衣装は踊り自体には集中しにくく物足りなさが残った。

 

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▲ 3幕 沈清と王の「ムーンライト パ ド ドゥ」場面

(c)ユニバーサル・バレエ

 

3幕は愛を誓う「王」と「沈清」の「ムーンライト パ ド ドゥ」が観客の心を奪う。 甘い音楽に合わせて足のステップを踏む二人のダンサーは、瞬間の寂しささえも踊りに見える程優雅だ。 特に、今回の公演でファン・ヘミンとオム・ジェヨンは10年以上積み重ねてきたパートナーシップを誇るかのごとくに完璧な呼吸を見せた。

 

名場面を安定的に描き出したダンサーは自分の役割を堂々と全うした。 今回の公演で「沈清」役を演じたユニバーサル・バレエ プリンシパル、ファン・ヘミンは成熟した演技力と優雅で正確なテクニックを駆使した。 愛らしい少女からお父さんを心配し涙が乾く日のない娘までを節制された演技力で描き出し、観客の目じりを濡らした。

 

「龍王」役を演じたイ・スンヒョンはリズム感と、生き生きとした踊りを見せた。「沈清」を祭物として捧げなければならない「船長」役のイ・ドンタクはキャラクターソリストとしての容貌を確固たるものとした。 彼は185cmという長身と長い腕と脚を使い、歯切れのよい動作で船長としてのカリスマを立体的に描き出した。

 

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