【公演レビュー】 舞台上の五線紙… 音符になった人々


ユニバーサル・バレエ
 「マルティプリシティ (Multiplicity. Forms of Silence and Emptiness)

バロック時代の銀色のカツラを着けた作曲家バッハの前に一人の男性が現れて尋ねる。「私があなたの音楽を使用しても宜しいでしょうか?」瞬間、幕が再び開き、オーケストラの形に舞台を埋める男女のダンサー18名が、バッハの指揮に従ってカンタータ205番 満足せるエーオルス「墓を裂け、破れ、打ち砕け」を全身で演奏し始める。ダンサー一人一人が楽器に、時には楽譜の音符に分解されてバッハが作曲した音楽を身体の振りで作りだしていく 耳ではなく目で「聞く」バッハの始まりである。

去る31922日、ソウルLGアートセンターにてユニバーサル・バレエ(ジュリア団長)が描き出したモダン・バレエ「マルティプリシティ」は、1999年にスペイン出身の振付家ナチョ・ドゥアト(58)が、オルガン演奏者であり、バロック時代の音楽家であるヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685~1750)の人生と芸術に影響を受けて創った作品だ。音楽家として成功を収め勢いに乗っていた時期のバッハ、晩年虚しさによろめく年老いたバッハを中心に置き、繰り広げられる喜怒哀楽を重厚に辿る。

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▲モダン・バレエ ‘マルティプリシティ’で、五線紙に見立てた鉄骨構造物の中へ入って踊る、音符を象徴する男女のダンサー達。/ユニバーサル・バレエ提供

垂直に突き立てるクラシック・バレエの線と、四方八方へと伸びていく現代舞踊の自由な動きが絶妙に交る。1部で無伴奏チェロ組曲プレリュード」にのって、バッハがチェロを象徴する女性ダンサーを懐に抱き、弓で彼女の体を引いている踊りが印象的であった。音楽的インスピレーションが溢れ出るバッハ、そのインスピレーションに合わせてバッハの前へ飛び出たかと思うと後ろへ弾むバレリーナの身の動きが濃艶だった。2名の男性ダンサーがフェンシングをするように弓で相手を押したり引いたりする動作では、2台のヴァイオリンが張り上げる悲鳴がそのまま聞こえてくるようであった。

始めから終わりまで、水が流れるように流れて行く身体の「流れ」がこの作品の核心だ。人間バッハは物理的な時間の前に力なく倒れるが、彼が残した音楽はどこまでも流れて永遠に届くことを暗示しているのだから。男性達の踊りは強く響き力がみなぎり、女性達はバッハの苦悩を緻密に描き出した。

絶頂は2部にある。9歳の時に母を亡くし、10歳で父を亡くして孤児となったバッハは、最初の夫人とも死別して再婚した。二人の夫人から生まれた20人の子供たちのうち10人は乳児の時に亡くした。彼もやはりじわじわと浸透する死の影から自由になることはできなかった。ついに目まで見えなくなったバッハは、嘆息と涙、苦痛の中で自らを神に任せて力なく横たえるが、音楽へと向かう情熱だけは諦めない。最後の場面、楽譜の五線紙をかたどった舞台後ろの大型鉄骨構造物の中へ、音符を象徴する男女のダンサー17名が入っていく。ダンサー達が音符となり身体で演奏するのは、序幕にも出てきたゴルトベルク変奏曲のアリア。踊りながら彼らはもう一度尋ねる。「私が身の程知らずにもあなたの音楽を使用しても宜しいでしょうか?」巨匠に頭を垂れる天才振付家の謙遜がにじみ出る場面だ。

[Chosun.com]

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